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「ママ」ではなく「私」を主語に生きるための産後の過ごし方妊娠・出産について

取材:2016年7月

著者インタビュー画像 「出産は、自分がこれからどんな人生を歩みたいかを改めて考える大きなチャンス」と吉岡さん。出産直後から1年間くらいかけて、ママとしてではなく、子どもを持つ1人の女性として、自分の心とからだを自分でケアすることが重要だといいます。また「なぜ働くか」「どう働くか」について、パートナーとの共通理解を深めることも不可欠。それが両立への不安や迷いを取り払う一番の近道です。
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自身の出産経験をもとに産後ケアの大切さを提唱

著者インタビュー画像 私はNPO法人「マドレボニータ」で産後の女性をケアするプログラムを提供しています。「マドレボニータ」とはスペイン語で「美しい母」という意味。美しい母とは、出産を機に心もからだも鍛えて、自分をケアし周りの人もケアできる力を持つようになった女性をイメージしています。もちろん子どもを持っても社会に出て働くことは大前提。働かずして、自分らしく生きることはできないと私は思っています。
私自身、25歳で出産した後、心とからだのダメージの大きさに衝撃を受けました。その経験から産後ケアの必要性を痛感。試行錯誤をしながら、産後のからだに負担をかけないようにバランスボールを取り入れたエクササイズや自分らしく生きるために参加者同士が語り合う「シェアリング」というワークなどからなる独自の産後ケアプログラムを形にしていきました。
マドレボニータでは産後1年間を大きく3つに分け、産後1カ月は「受けるケア」の時期、産後2~6カ月は「取り組むケア」の時期、産後7~12カ月は「社会復帰の準備期」ととらえています。それぞれの時期について紹介していきます。

産褥期はパートナーとともにチームで乗り切る

著者インタビュー画像 まず産後1カ月の「受けるケア」ですが、これは産後のからだを回復させるための養生(ようじょう)に専念するために周囲からのサポートを受けるという意味。出産直後の母体は、子宮や骨盤を中心に、大きなダメージを受けているため、授乳と食事のとき以外は布団に横になって過ごし、家事などは他の誰かにお願いする必要があります。ところが頼れるのがパートナーや実母だけだと限界があり、結局自分が動くことになってしまい、からだを十分に回復させることができません。それを「仕方がない」とあきらめず、妊娠前から夫婦で話し合って、サポーターを1人でも多く作っておき、養生に専念する環境を整えておきましょう。
おすすめなのはFacebookを使って「産褥ヘルプグループ」を作ることです。出産のお祝いに、高価な贈り物やケーキを持って遊びにいくのではなく、ごはん作り、洗濯、掃除などの家事や、沐浴、おむつ替えなどの赤ちゃんのお世話をお手伝いにいって、産婦にしっかり休んでもらおうという試みです。産褥期のいちばん大変な時期に、「お客さん」として遊びにいくのではなく、「お手伝い」をしにいく。そんなこと頼むのは申し訳ないという人もいますが、出産祝いのかわりだと思えば、有り難く受け取れるはず。そして、また友人が出産したときには、自分もお手伝いにいく。 このやり方で産後1カ月を楽しく乗り切る人が増えてきています。産後をきっかけにより人間関係が豊かになるというのはとても嬉しいことです。
ここで大事なのは妊産婦がこれを取り仕切るのではなく、妊産婦のパートナーがプロジェクトマネジャーになり、手配、シフト、お礼などをすべて管理すること。産婦はスマホの液晶画面をみたりせずに、寝たきりで養生するのが最優先ですので、お手伝いにきてくれる人との連絡などはパートナーに任せる。 男性はこうしたマネジメント的な仕事が得意な人が多いので、信頼してお任せすると力を発揮してくれます。家事を男性1人で一手に引き受けてぐったりするよりも、たくさんの人の手を借りて賑やかな産後を過ごしたほうが、家庭の風通しもよく、ヘルシーです。子どもが生まれたことをきっかけに、夫婦で交友関係が広がり、感謝の気持ちでいっぱいになるという声を多数聞いていますよ。
その方法は『産褥記2』『産褥記3』で詳しく紹介しています。(※1)

産褥期にできるからだのケア

著者インタビュー画像 産褥期は、運動よりも、とにかく横になって休むことが大事です。お布団の上でできるケアは意識して行いましょう。まずおすすめなのは「うつぶせ寝」。うつぶせになるだけで、ゆるんだ腹直筋を本来の長さに伸ばすことができます。さらにうつぶせの状態でお尻の筋肉を使って太ももを付け根から外側にひねる体操を1日1~2回行うと、開いた骨盤を閉める効果があります。これは産後1日目からできますし、その後も半年くらいは継続してほしい基本のケアです。
リーフレット『妊娠中〜産後の過ごし方ガイド』より。PDFのダウンロードもできます。(※2)

産後2~6カ月は心身のリハビリを意識して

著者インタビュー画像 産後1カ月の養生を経て、からだが回復し、寝たきりの生活を終えることを「床上げ」といいます。「床上げ」ができたら、そのあとは「取り組むケア」のスタート。「取り組むケア」とは一言でいえば心身のリハビリです。からだの面では筋肉や心肺機能が激しく低下していて、最初は階段を3段上がるだけでも息切れするような状態。無理をせず、でも少しずつ回復させる必要があります。
まず、日々の姿勢や赤ちゃんのお世話で行う動作に気を付けることが弱った筋肉を鍛える第一歩。授乳中は背骨をまっすぐに伸ばし、背中の筋肉で肩を後ろに引いた状態になるように意識して。抱っこのときは腹筋と背筋に力を入れてお尻を締めて立つことを意識しましょう。自分1人ではなかなかわからないという人は、自治体や民間で開催されている産後ケア講座などを受講し、仲間とともに積極的に取り組んでみるのもよいでしょう。
(※3)参考文献『産前・産後のからだ革命1 産前・産後の基本のエクササイズ』 (カドカワ・ミニッツブック)

「私」を主語にして語り合える場に出かける

著者インタビュー画像 「取り組むケア」の心のリハビリについては、主に「コミュニケーション力の回復」を目指します。産後赤ちゃんと密着した生活が続くと、驚くほど言葉が出てこなくなります。集中力がなくなったり、社会との接点がなくなったせいで自分を主語にして話す機会がなくなってしまう。また母としての役割に圧倒されて、自分のアイデンティティを見失いそうになることも。そんなときこそ「ママ」ではなく、「私」を主語に話せる場に出かけることをおすすめします。
たとえば「マドレボニータ」では自分の思いを言葉にしてその場にいる人たちと分かち合う「シェアリング」というプログラムを行っています。この時期、これからの人生について、ぼんやりとでもよいから自分の言葉でビジョンを語ることや、ママではなく、大人の女性である「私」として語り合い、共感し合える友達がいることがとても大切です。

産後7~12カ月頃は社会復帰の準備をスタート

著者インタビュー画像4 産後半年を過ぎたら、「社会復帰の準備期」となります。すでに復職している人も、もう少し産休中の人も、どうやって子育てと仕事を両立させるか考える時期。でも「本当に両立できるのかしら?」「どちらも中途半端にならないか?」などの不安や悩みを抱える人は多いようです。
ワーキングマザーを対象としたあるアンケートで、「子育てをしながら働く上で、今のあなたに必要なことは何ですか?」という質問に対して1位は「なぜ働くか、どう働くかという自分の軸を持つこと」、2位は「パートナーとの共通理解を図ること」でした(※)。逆に言えば、この2つが揺らいだり、十分でないと感じたりすると、両立を困難だと感じてしまうということです。
保育園探しや職場への挨拶なども大事ですが、産後7カ月目からは「働く動機づけ」と「パートナーとの共通理解」の2つをしっかり固めることが不可欠だと思います。そのために、この時期は、信頼できる人に赤ちゃんを預ける練習をしつつ、1人の時間やパートナーと2人の時間を持つようにしてください。
(※4)NECワーキングマザーサロン 参加者1162人が回答(2010年NPO法人マドレボニータ調べ)『産後白書2』より

20分でできるパートナーとの「シェアリング」

著者インタビュー画像 多くのワーキングマザーが課題に感じている「パートナーとの共通理解」ですが、子育ての仕方や働き方についてのスタンスをすり合わせるには「シェアリング」という方法がおすすめ。

<パートナーとのシェアリングのやり方>
パートナーと2人で行うワーク。所要時間は20分程度。
1) 2人で「人生」「仕事」「パートナーシップ」の3つから話したいテーマを一つ選ぶ。
2) まずは個別ワーク。1人1枚A4の紙の中心にそのテーマにおける「希望」を象徴する絵を描き、そのまわりに、マインドマップのもととなる線をひいて、枝分かれさせておく。そして絵をパートナーと交換して受け取っておく。
3) 次は互いのリスニング。話し手は3分間、そのテーマについて考えていることや感じていることを話す。その間、聞き手は、さきほど受け取ったマインドマップにメモをしながら、口を挟まず、ひたすら聞く。
4) 聞き終わったら、メモを見渡し、聞いた内容を45秒で要約して相手に伝える。そのあとは、ひとことメッセージを書いて、今日の日づけと書いた人のサインをして相手に返す。
5) 話し手と聞き手を交替し、3)~4)を繰り返す。
パートナーと建設的な相談や話し合いがなかなかできないのは、不満や愚痴を吐き出し合って感情的な口論になっていることが多いからのように思います。この方法であれば穏やかに前向きにお互いの気持ちを示し理解し合うことができ、お互いの人生を応援し合えるようなパートナーシップを築くことができます。また、相手に話を聞いてもらうだけで承認欲求が満たされ、自己表現への自信もついてきます。シェアリングで深めたパートナーとの共通理解が基盤にあれば、両立への不安も解消されていくと思いますよ。

産後の過ごし方がアイデンティティの再構築を助ける

著者インタビュー画像 赤ちゃんの存在はあまりにみずみずしく美しいので、セルフイメージを無意識に赤ちゃんに重ねてしまい、自分に向き合わずになんとなく育休期間を過ごすこともできてしまいます。いつの間にか子どものお世話をすることだけが自分のアイデンティティになってしまうのです。子どもはやがて自立します。 そのときになってからどうしようと考えても遅いのです。そのときを見据えて、母となったばかりの産後の時期から、自分の心身や生き方に向き合うことが大事です。

ぜひ、今回紹介した「受けるケア」「取り組むケア」「社会復帰の準備」の3つのステージを意識しながら産後の日々を前向きに過ごしてください。からだの面では産後のダメージの大きさを自覚して、毎日少しずつ回復のためのエクササイズを続けていきましょう。並行して見失いそうになる「私」らしさと向き合うための自己表現の場を持つこと、考える時間を持つことを心がけてください。こうしたセルフケアで心身を回復させ、子育てと仕事の両立に自信を持って社会復帰する女性がますます増えていくことを願っています。

※記事内容およびプロフィールは取材当時のものです。

著者プロフィール

NPO法人マドレボニータ代表

吉岡 マコ

<本文中参照元リンク先>
(※1)『産褥記2』『産褥記3』

(※2)リーフレット『妊娠中〜産後の過ごし方ガイド』より
(※3)参考文献『産前・産後のからだ革命1 産前・産後の基本のエクササイズ』 (カドカワ・ミニッツブック)
(※4)NECワーキングマザーサロン 参加者1162人が回答(2010年NPO法人マドレボニータ調べ)『産後白書2』より
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