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生涯賃金、税金、教育、年金…知っておきたい共働きのメリットと家計管理お金・制度について

取材:2016年8月(2018年1月一部加筆修正)

子どもが生まれ、仕事と子育てを両立することは、大変なことも多いかもしれませんが、一番のメリットは世帯収入の増加、自由になるお金が増えることではないでしょうか?加えて、夫婦のどちらかが病気にかかったときなども、二人で家計を支えていたほうが安心できます。では具体的に収入や税制面でどれくらい得なのでしょうか?またこれからかかる子どもの教育費や老後資金に対してどう備えられるのでしょうか?これらについてファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんに伺いました。
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生涯賃金が高く、ライフイベント実現がしやすい共働き世帯

著者インタビュー画像 働き方による女性の生涯賃金の違いはどのくらいあると思いますか? ある統計によると(※1)、大学・大学院を卒業後、同じ会社でフルタイムの正社員を続けた場合の60歳までの生涯賃金(退職金を含めない)は2億4,000万円。一方、同様の条件でフルタイムの非正社員として60歳まで働いた場合、生涯賃金は1億2,000万円でした。もちろん、勤務先の規模などによっても差がでますが、働き方によって約2倍、1億円以上の差がでることもあるわけです。
女性の場合、子育て中も離職せず定年まで正社員として働くことは、まだまだ普通のこととはいえません。とはいえ、子育てのために退職するなど、いったん正社員の身分から離れてしまうと、子育てが一段落してから働いたとしても生涯賃金はおのずと低くなります。車を買う、家を買う、子どもを教育する、老後資金をためる、といったライフイベントは、女性もずっと働き続ける共働き世帯のほうが無理なく実現しやすいのは当然です。
女性がやりがいを持って働き続けることには、ほかにも思わぬメリットがあります。たとえば子どもの習い事費用や交際費。ここ数年マネー相談を受けていると、ママ友とのお付き合いのため、子どもの習い事を新しく始める羽目になったり、値段の張るランチに誘われても断り切れなかったりして、身の丈以上の出費に悩んでいるという専業主婦の方が多く、驚きます。私からすれば「嫌な誘いは断ればいいのでは?」と思いますが、ご近所で毎日顔を合わせるような間柄だと、簡単にはいかないことも多いのでしょう。そうした悩みからは距離をおきやすいということは、働いているからこその特権ともいえるのではないでしょうか。

「夫のみ800万」より「夫400万+妻400万」世帯のほうが税負担が軽い

著者インタビュー画像 仕事と子育ての両立を頑張っていると、「夫の年収がもっと高ければ、私は働かなくても済むのに……」と思うことがあるかもしれません。でも実は同じ世帯年収でも、1人で高額を稼ぐより、2人で稼いだほうが税制面でかなりメリットがあるのをご存じでしょうか?
税額シミュレーションサイトを利用して、試算してみました。

◎家庭A:
年収が800万円の夫と専業主婦の妻
所得税 年間38万6500円
住民税 年間42万円
計80万6500円

◎家庭B:
年収がそれぞれ400万円の共働き会社員夫婦
所得税 年間8万3500円/人
住民税 年間17万5000円/人
計25万8500円×2人分=51万7000円

ともに世帯年収800万円でも、BはAよりも税負担が年間28万9500円軽くなります。この状況が20年続けば、BはAに比べ納税額がトータルで579万円も少なくなる計算です。
年収1000万円を超える世帯でも同様のことがいえます。例えば年収が1200万円の夫と専業主婦の世帯と、夫、妻のそれぞれが600万円ずつ稼ぐ世帯では、年収が1200万円の夫と専業主婦の世帯のほうがかなり税金の負担が多くなります。
また2018年からは夫が主に働いている家庭の場合、夫の年収が1,120万円を超えると夫の収入に適用される配偶者控除額が減り、年収1,220万円を超えると妻が専業主婦であっても、配偶者控除が使えなくなりました。先に書いた、年収1,200万円の夫と専業主婦の世帯のケースでは、配偶者控除は適用されるものの控除額は以前よりも減り、所得税と住民税の納税額が増えますので、手取りの差は以前よりも大きくなっています。
もちろん1,200万円も稼いでくれる夫がいるのはありがたいことですが、収入は分散していたほうが税負担はお得になるといえるのです。もちろん企業によっては企業年金、家賃補助制度、家族手当の制度など、さまざまな福利厚生があり、一概に税負担だけで損得は計れません。
また、共働きで子どもが小さいうちは時短勤務をしている方も多くいます。その際、出産前などのフルタイム勤務時よりも収入が減るわけですが、3歳未満のお子さんを育てているあいだ、時短勤務などをされている方は「養育特例」という制度も申請することができます。これは時短勤務などで、厚生年金保険料を算出する際のベースとなる標準報酬月額が低くなっているとしても、出産前の標準報酬月額で厚生年金保険料を支払ったとみなしてくれる制度です。厚生年金保険料の負担は抑えられたまま、将来の厚生年金は多くもらえるように配慮された制度の利用もできるわけです。
これはあまり知られていないメリットではないでしょうか?

年収170~180万円以上稼げるなら、妻も働いたほうが税制面でお得

著者インタビュー画像 ほかにも共働きのメリットはいろいろあります。例えば正社員はもちろん、パート勤務であっても、正社員のおおむね4分の3以上の時間を働き、年収106万円以上、あるいは130万円以上を得ていると、社会保険に加入できます。社会保険に加入していると、病気や事故で長期間働けなくなっても、傷病手当金で給料の約3分の2が支給されます。しかも民間企業なら1年半、公務員なら1年半を超えるケースもあって、その期間はかなり長いのです。民間の医療保険や生命保険に加入していても、多くの場合入院していないと支給されないことに比べれば、これはかなり手厚い補償といえます。
また厚生年金に加入していれば、会社が半額負担して年金を積み立ててくれるのですから、給料をもらいながら毎月コツコツと、老後のための貯金をしていることになります。自営業の私からすればメリットだらけだと思いますし、もちろん専業主婦など働いていない人にはないメリットです。
夫の扶養に入っている妻が再就職する際、配偶者控除が受けられる年収の上限である年収103万円の壁にこだわり、その範囲内で働こうとする方はまだまだ多くいます。しかし、配偶者控除の上限額は2018年から150万円以下に引き上げられています。配偶者控除が受けられる妻の年収が引き上げられたのは朗報ですが、年収が100万円(自治体によっては金額が異なるケースもある)を超えると妻自身の収入に住民税がかかり、103万円を超えると所得税もかかります。
また前述の通り、106万円以上、あるいは130万円以上からは社会保険の負担も発生します。ちなみに、106万円の収入でも、社会保険料は年間で16万円くらいかかります。配偶者控除が受けられる妻の年収ラインはアップしたものの、妻自身の収入にかかる税金や社会保険料のことを考えますと、「いくらの収入にしておくのがいいの?」と悩む方は、相当増えているのではないでしょうか。
支払う税金や社会保険料をできるだけ安く抑えたいという方は少なくありませんが、思い切って年収170~180万円以上を目指して働くのもひとつの手です。加入している健康保険組合や、協会けんぽは都道府県によって若干保険料率は異なりますし、住民税の課税最低ラインは100万円より低い自治体もあります。そのため、目安としてはおおよそ年収170~180万円くらいは働かないと、夫の扶養からは外れて、自分で税金や社会保険料を納めるメリットは生じにくくなります。とはいえ、すぐに170~180万円に届かなくても、数年以内に昇給やキャリアアップが見込めるなら、収入を増やしたほうが得だと思います。
また「子どもが小学校に入学したら復帰して働きたい」という声もよく聞きますが、雇う側は子どもの年齢ではなく本人の年齢や仕事から離れていた期間などで判断します。20年以上働くと退職金の評価もアップしますので、再就職するならなるべく早いほうが労働市場における価値も高く、生涯賃金も上がります。
とはいえ私は、専業主婦でいることや扶養の範囲内で働くことを否定しているわけではありません。働かずに家のことをきちんとこなして、家族が快適に暮らせるようにするのも、幸せのかたちだと思うからです。結局は本人が自分の人生に納得するかどうかなのです。自分のなかに働く意欲があるなら、ぜひ本腰を入れて働くほうに舵を取ることをアドバイスしたいですね。

大学の学費は0歳からの計画的な準備が必須

著者インタビュー画像 教育資金の準備がしやすいことは、共働き世帯のメリットとして非常に大きいと思います。もし高校まで公立だったとしても、大学となると国公立大学でも年間約60万円、私大文系で120~130万円程度、私大理系で170~180万円程度の教育資金が1人当たり4年間(医歯薬系ならより高額で6年間)必要になります。
この負担感は強烈で、3人の子どもがいる私の経験からしても事前の準備なしには厳しかったですね。甘くみていると子どもに奨学金という負債を背負わせることになります。結果、返済できなくて苦しんでいる若者が社会 問題になっているのはご存じの通りです。せっかく共働きで収入に余裕があるなら、子どもが0歳のときから学資保険などで積み立てをスタートし、児童手当にも手を付けずにためて、18歳になった時点で大学4年分の学費が用意できている状態にするのが理想です。
そのうえでなお余裕があるなら、私立の中高一貫校への入学を検討するのもアリでしょう。しかしこれも要注意。中学受験のためには一般的には小学校4年生から塾通いがスタートするので、高校まででも9年間「降りられない船」に乗ることになり、教育費だけで年間100万円前後かかり続けることになります。その後の大学時代も含めた13年の間に「会社の組織改編による減給」や、「昇格によって残業代ゼロになり年収が減る」などのリスクがないとは限りません。また受験となると子どもの負担も相当なもの。「受験したいかどうか」は必ず子どもの意思も確認したほうがいいと思います。

将来、お金に困らないためにブラックボックスはオープンに

著者インタビュー画像 いずれにせよ、教育費については「早いもの負け」というのが私の実感。今は0歳から習い事教室がいろいろあり、あの手この手で勧誘されますし、中学受験の塾もうっかり入ると非常に熱心で、なかなかやめにくいものです。周囲の雰囲気に流され「やったほうがいいのかな?」「うちでもできるかも?」と身の丈に合わない出費を重ねてしまい、いざ高校卒業となったときに教育資金が枯渇してしまうケースを数多く見てきました。共働きであっても「なんとかなるさ」と考えず、慎重に計画的にどこにどれだけかけるかを決めたほうがよいでしょう。
そのためにも押さえておきたいのは家計管理のルール。共働きの場合、夫婦で家計に必要な分を出し合い、それ以外は相手に任せてお財布を別々にしているケースがよくあります。でもこれは家計にブラックボックスをつくることになり、とても危険。子どもが小さいうちは通用しても、教育費が増えたとき、どちらが、どの費用を負担するかでもめることが多いのです。定期的にお互いの預貯金などを公開し合い、長期的な貯金目標や大きな出費の分担額をはっきりしておく必要があります。

高収入の夫に先立たれると、専業主婦も安泰ではない

著者インタビュー画像 子どもの教育にかかりきりの時期は、金銭的な負担も大きく、なかなか老後準備まで手が回らないと思いますが、老後の資金準備は大切です。最も頼りになるのはやはり公的年金。
実は年金については世帯年収が同じ場合、「会社員の夫+専業主婦の妻の家庭」と「夫婦とも会社員の家庭」を比べても、受給額に大きな差はでません。世帯年収が同じであれば、ある程度は平等に支給されるため、年金を払わなくても払った人と同等に基礎年金部分が支給される専業主婦の特権は大きく、共働きのメリットは薄れます。
そこで注目したいのは、夫に先立たれたときに妻に支給される年金について。専業主婦の場合、夫に支給されていた厚生年金の4分3程度と妻自身の国民年金を合わせた額になります。こうなると、夫が高収入であっても年金は目減りし、ゆとりがなくなる可能性が高まります。共働きで夫が亡くなった場合、自分の支給分に夫の遺族年金が若干ですが、上乗せされるケースが多くなります。年金の計算はとても複雑なため細かな条件で変動しますが、共働きで自分も年金保険料を払ってきた女性に対し、自分が払った保険料分が無駄にならないように、年金額を調整してくれるようになっているからです。
公益財団法人生命保険文化センターの調査(※2)では、夫婦2人の老後の生活費の目安は最低月22万円、ゆとりのある暮らしで月約35万円になっています。老後は公的年金での下支えがあるとはいえ、多くの家庭では年金だけでは安心できないため、退職金、iDeCo(確定拠出年金)や民間の積立タイプの保険、預貯金、財形年金貯蓄などで、自衛の策を講じる必要があるでしょう。退職後、平均寿命までは生きることを想定し、老後にもらえるお金とかかるお金についても早めにシミュレーションしてみましょう。

共働きで鍛えられる「社会的な筋肉」は一生の宝

著者インタビュー画像 夫婦共働き世帯と夫のみが働く世帯とを比較して、もらえるお金やそのためにかける時間や労力について考えるとどちらが損か得か、悩んでしまうかもしれません。
でも私が老後のマネー相談を受けていて強く思うのが、共働きで頑張ってきた妻のほうが専業主婦の妻より、生活力が高いケースが多いということです。
私が老後の資金計画ややることリストを提案しても、「夫に任せていたので私にはわからない」「畠中さん、やっておいて」と依存してくるのはたいてい専業主婦の方です。
ずっと社会に出て働いてきた女性は、アドバイスに従って事務処理もこなし、やるべきことはすぐにやってみる柔軟な人が多い印象です。
これは私の個人的経験に基づく感想で、全てにあてはまるわけではなく、働いていない人の能力が低いと断じるわけではありません。
ただ、社会にでて働いていれば理不尽なことや未経験のことに対処したり、失敗して責任を問われたりと、常に緊張感があります。
チームワークを発揮して何かを成し遂げ、充実感を味わうこともあるでしょう。さまざまな経験を通して、社会を見る目が養われ、「社会的な筋肉」が鍛えられるのは間違いありません。
そうした経験が子育て中も老後もどれだけ役立つかと考えると、まさにお金にかえられない価値であり、損か得かといえば、間違いなく得だと思います。
ですから、働く意欲がある方には、ぜひ自信を持って働き続けることを選んでほしいですね。

<参考リンク>

(※1)独立行政法人労働政策研究・研修機構
「ユースフル労働統計2015 -労働統計加工指標集-」

http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/index.html

(※2)公益財団法人生命保険文化センター
「生活保障に関する調査」(平成28年度)

http://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/7.html
※今回の記事で紹介した税金や年金の試算は、諸条件を設定した上で出したもので、あくまでも目安です。また法改正などによる変更で、数字が変動する可能性もあります。最新の情報を確認しましょう。

著者プロフィール

ファイナンシャルプランナー

畠中雅子

ファイナンシャルプランナー(CFP®)、FP技能士1級。
大学時代よりフリーライター活動を始め、マネーライターを経て、長女を出産した翌年の1992年にファイナンシャルプランナーになる。
FP技能士1級資格取得後、大学院に進学し、修士課程では生命保険会社の会計システムに関する研究を、博士後期課程では金融制度改革に関する研究を行う。
プライベートでは1女2男の母親。現在は新聞、雑誌、インターネットなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、個人相談、金融機関へのアドバイザー業務などを行っている。
教育資金アドバイスを行う「子どもにかけるお金を考える会」、高齢者施設への住み替え資金アドバイスを行う「高齢期のお金を考える会」、ひきこもりのお子さんがいるご家庭向けに生活設計アドバイスを行う「働けない子どものお金を考える会」を主宰している。

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